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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)316号 判決

原告

リヒ・マリアンヌ・ミツコ

原告

高野敬子

右両名訴訟代理人

小林茂実

被告

日精電機株式会社

右代表者

窪山五郎

右訴訟代理人

伊藤武

主文

一  被告が訴外ジェイ・エス・リヒに対する東京地方裁判所昭和四八年(ヨ)第七六〇三号動産仮差押命令に基づいて、同年一二月三日別紙目録(一)(二)(三)の各物件についてした仮差押執行は、これを許さない。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実〈抄〉

第一 当事者の求める裁判

一、原告

1 原告リヒ・マリアンヌ・ミツコ

(一) 主文第一項中別紙目録(一)(三)に関する部分と同旨。

(二) 主文第二項と同旨。

第二 当事者の主張する事実

一、請求の原因

1 被告は、訴外ジェイ・エス・リヒ(以下、訴外人という。)に対する東京地方裁判所昭和四八年(ヨ)第七六〇三号動産仮差押命令に基づいて、同年一二月三日、別紙目録(一)(二)(三)の各物件について、仮差押をした。

2 しかし、同目録(一)(三)の各物件の所有権あるいは持分二分の一の共有権は、原告リヒ・マリアンヌ・ミツコ(以下、原告ミツコという。)に属するものである。すなわち、原告ミツコと訴外人は、昭和四三年二月一五日に結婚し、共同生活を続けているものであるが、同目録(一)(二)の各物件は、原告ミツコが、同目録(一)(三)下欄記載の原因に基いて取得したものであるから、原告ミツコの特有財産である。仮りに同目録(三)の各物件が原告ミツコの特有財産でないとしても、右は原告ミツコと訴外人の共同生活に必要な家財道具であるから、少なくともその二分の一の持分は原告ミツコに属するものである。

二、請求の原因に対する認容

1 請求の原因第1項の事実は認める。

2 同第2項の事実は知らない。

理由

一請求の原因第1の事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、別紙目録(一)(二)(三)の各物件が原告らの所有に属するものであるかを判断する。

1  同目録(一)の各物件について

(一)  〈証拠〉を総合すれば、原告ミツコと訴外人が昭和四三年二月一五日に結婚し、共同生活を続けていること、原告ミツコが番号1ないし3の物件を、各下欄記載の原因に基いて取得したこと、原告ミツコが番号4ないし12の物件を、昭和四三年二月頃、父から贈与され、結婚の際に嫁入り道具として持参してきたことを認めることができ、これに反する証拠はない。

(二)  なお、番号1のカラーテレビは、現在では夫婦の共同生活に必要な家財道具の一つといえるので、後に判断するように、同目録(三)の各物件と同様原告ミツコと訴外人の共有に属するのではないかとも考えられるが、本件では、二度目の結婚記念日の贈物として夫たる訴外人から贈与されたものであるとの原告ミツコ本人の供述に心証を惹くところがあり、従つて、夫婦間でその一方の所有にする意思が明確なものであるといえるから、原告ミツコの特有財産とみるべきである。

2  同目録(二)の各物件について〈略〉

3  同目録(三)の各物件について

(一)  さて、問題は、別紙目録(三)すなわち原告ミツコが自己所有と主張するもののうち同目録(一)の物件を除いたものの所有権帰属である。〈証拠〉を総合すれば、右各物件が各下欄記載の原因に基いて取得されたことを認めることができる。右各書証は同原告に相当の資力があつたことの証拠であるに止まり、右各物件の取得に必ずしも結び付かないけれども、格別の反証もない以上、同原告本人の供述を併せて、右認定に導くに支障はないというべきである。

(二)  ところで、原告ミツコと訴外人とが結婚し共同生活を営んでいることは前判示のとおりであるが、一般に、夫婦間の実質的平等という大原則から、夫婦の共同生活に必要で且つ婚姻後に取得された家財は、たとえ夫婦の一方の名義・収入又は資産で購入されたとしても、夫婦の共有(持分は二分の一ずつ)に属すると解すべきである。かように解することは、家財や日用品の購入によつて生ずるものを代表とする日常の家事債務が夫婦の連帯責任であることとの権衡からいつても妥当であるし、またそう解するとしても、その共有であることが夫婦の共同使用・占有という外形によつて公示されている以上、本件被告のような第三者を不当に害するものではない。

(三)  そうだとすれば、同目録(三)の物件は、いずれも、夫婦の共同生活に必要で、且つ婚姻後に取得された家財道具であるから(ステレオは、現在では家具としての機能を営んでいるし、ベビーダンスは、夫婦の重要な仕事の一つというべき子供の養育に欠かせないので、夫婦の共同生活に必要なものといえるので、番号1、7も含めてよいと考える)、たとえ原告ミツコ名義で取得されたとしても、それらの購入資金が、厳密に原告ミツコから出たかどうかを判断するまでもなく、訴外人と原告ミツコの共有に属するというべきである。

(四)  そして、共有者の一人に対する債権者が、該共有者の持分権を差押えることは妨げないとしても、共有物自体を差押えることはできないと解すべきである。けだし、共有者は、他の共有者の同意を得ずには共有物自体を処分しえないのみならず、各自の持分権が共有物全体にその効力を及ぼしているからである。従つて、共有者の一人に対する債権者が共有物自体を差押えた場合には、他の持分権者は、共有物の保存行為として、単独で第三者異議の訴を提起し、執行の排除を求めうる。本件のように仮差押の場合にも同様である。

三以上判示のとおりであつて、原告らの請求はいずれも理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (倉田卓次)

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